恋の華が舞う季節
〔どちら様ですか?〕


インターホンごしに聞こえる、葵のお母さんの声。


あの日の、泣け叫んでいた、悲痛の声と、今の普通の声が重なる。


「結衣です」


〔結衣ちゃん? 待って、今、開けるから〕


そう言って、何秒か経った後、久しぶりに葵の母さんを、見た。


「こんにちは……」


「こんにちは、あがってちょうだい。結衣ちゃんに、渡したいものがあるのよ」


「え?」


促されるままに、私は家に入っていく。


何年ぶりだろう。


久々に来たら、何か変な感じだ。



「結衣ちゃん、やっと……落ち着いたのね……」


「――はい」


「なら、これをあげても平気ね」


「え?」


葵のお母さんは、私の目の前に、一通の白い手紙を取り出した。


「この字は……!」


「そう、葵が貴方宛に、書いたものよ。
 貴方にすぐに、渡したかったけれど、ここには来なかったでしょう?

 お葬式にも、参列してなかったから……。

 辛かったでしょう?
 だからこれは、貴方が来た時に、渡そうと思っていたの」



「ごめんなさい」


「誰だって、逃げたくなるわ。
 貴方がそれほど、葵を好きだったって気持ちが伝わったから。

 きっと、葵も幸せよ。

 この手紙は、貴方の誕生日に葵が渡すつもりだったものなの。
 貴方が読みなさい。別に今、ここで読まなくていいから」
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