家庭*恋*師
「人の入浴中に、脅かそうと思って入るかっ普通!?しかも初対面の相手に!あんたには常識ってもんがないの?」
「すみません…」

こんなに説教をされたのは、何年ぶりだろうか。しかも、床に正座で。思い起こしても覚えがないところを見れば、もしかしたら人生で初めての経験かもしれない。

顔を赤らめ恥じらいでいたところまでは自分にも懺悔の念があったものの、その後からは別の意味で後悔することになった。

叫び声を上げたと思ったら、それは一般的な「きゃー」という甲高いものではなく、この小さな少女はすぐさま攻撃へと回ったのだ。しかも、自分が入浴を済ませる間正座で待っていろ、と。

まるで厳格な頑固じじいにでも怒鳴られているような気分だ。それも、経験がないので想像でしかないのだが。

…最初から優位に立つどころか、すっかり形勢逆転である。

「しかも、始業式サボって平日にこんな時間に帰ってくるとか、学生の自覚ってもんがなさすぎる!」

ガミガミとまだ続けているこの佐久良南という少女は、自分が思った通り、理事長から直々に任命された家庭教師。

教員を就けられなかっただけまだ良かったと始めは思ったが、この頭の堅さは一筋縄ではいかないのが歴然。俗にいう、優等生気質という奴らしい。中学時代の自分と重なり、少し恥ずかしさにも似た疲れがこみ上げる。

はぁ、と思わず漏れた溜息。だが、それを一喝するように、自分の座っている床の前に何かが叩き付けられる音に、目線を上げた。
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