ツラの皮
一念発起して冗談めかそうかと引き結んでいた口を解いた時、バックから携帯の着信を知らせる音楽が鳴った。
「げ」
ディスプレイの名前を見て顔を強張らせた私は適当な断り文句を呟いて、慌てて会場を抜け出した。
会場はちょっと大きい小料理屋で、宿泊できるんじゃないかという個室が廊下に並んでいる。
赤い絨毯の敷かれた廊下を突き当たり、トイレと階段のあるフロアで、料理を運ぶ店員さんを気にしながら電話する。
「だから、今から来いとか無理だって言ってるでしょっ!合コンの真っ只中なの!」
どれだけ説明してみたところで相手は折れる気配もない。
いぎたない声は今度は『来なけりゃ今すぐ耳を揃えて返せ』と脅しに掛かった。