ツラの皮




『だ、だって。仕事してたら『父親が危篤』って会社に連絡が入って直ぐ帰りなさいって帰されたのーっ!』



そこまでするか、タチバナの野郎。


呆れ果てて溜息しか出ない。


ちょっと待ってて、といって暫くしてジャラジャラという忙しない音が途絶えたところからして、どうやら場所を移動したようだ。




開口一番、嬉しそうな声で「聞いて聞いて」となにやら報告がある様子。


とはいえコイツの報告に良いことなんざ、今までないが。



『あのねー。週末に穂積クンが旅行連れてってくれるんだって!今更親子で旅行って喜ぶことでもないけど。子供の頃から別で暮らしてたし、旅行はおろか動物園とかも連れてってもらったことなかったから……』



ちょっと嬉しい……、

と照れたように小さく付け加えられた言葉が可愛くて思わずコッチの顔も緩む。





ファザコンが。


そいうのはカレシと満喫する年頃だろーが。


つか、俺が動物園だろうが旅行だろうが連れてってやるから可愛く喜んでみせろ。






………と思ったことは脇に追いやっておく。



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