ツラの皮


ぼうっと見入っていると男は眉間に皺を寄せ、片口を歪ませた。




「何だ。誘ってんのか?」




誘う?

…………って何が。




はぁ?とチンピラ染みた声で唸り、周囲を見回した私は、男を改めて見直し、勢いよく飛び上がった。




場所は電車の中。

朝とはいえ通勤ラッシュにはまだ余裕があり、人はまばら。

それでも人が居ないわけではなく、席もそこそこ埋まっている。




そして隣にはまるで見知らぬ男。

多分、たまたま居合わせただけの乗客。




ヤバ。




眠かったとはいえ電車で爆睡して、隣の男の肩を無許可で借り切ったらしいことを瞬時に理解した。


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