たとえ愛なんてなかったとしても
「あなたを捨てたお母さんを、恨んでいるでょう?」

 

当然恨んでいる、と言いたかったけれど、今までの気持ちを一言では言い表せなくて、無言でいたら、彼女は弱々しい声でゆっくりと経緯を話し始める。


未婚で私を妊娠してしまった彼女は、頼れる人もいなく、私の父親である相手は行方をくらましてしまったので。

どうにか二人で生きていく道を探したけれど、どうにもならず私を施設に預けた。


未婚の母への世間の目は、今よりも昔の方がさらに厳しくて。
ただでさえ幼い子供がいる女性が職を見つけるのも難しいのに、その頃は誰もが就職先がなかなか無かった、と。



「そう、だったんですか」



そんな事情があったなら仕方ないですね、と全てを許し、感動の親子の再会という気分にもなれない。


養女に行った先で幸せに育っていたなら、許せたかもしれないけれど、そうではない私は何を聞いても、捨てられたことに対する恨みの気持ちが消えてくれないから。


かといって、今の彼女にひどい言葉を投げかけることもできなかった。


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