たとえ愛なんてなかったとしても
「うん......。
いつ死んでもおかしくないくらいだって言われたのに、私に会うまで待っててくれたんだよ。
ボロボロの体で、待っててくれたんだよ。

私ね、今まで芸能人がライブ中や賞をとった時に、親に感謝の言葉を言うのが理解できなかった。

だけど、今なら理解できる気がするの」


「そうか」



それは、親が生んでくれたから自分がいる、みたいなことだろうか。

それとも、もっと他のことか、なんとなくは察しても、感情的に心から共感できることは俺にはきっと一生無理だろう。

けれど、ミヒの生みの母親だけでもまともで良かった、なぜかそれだけは心からそう思えた。



「でも、もう言えない......。
言いたくても、もう二度と言えない。

ひどいよ......。
私、一回もお母さんありがとう、って言えなかった」


「写真に向かって言ってやれ」



死んでからも声が届くのか、それが意味のある行為なのか、まだ死んだことがないので分からない。

魂も、思いの力も、存在しないのかもしれない。ミヒの望むこと全て叶えずに逝ってしまったくらいだ。


しかし、それでも最後の力を振り絞ってミヒを待っててくれた母親ならば、きっとどこかでミヒの幸せを願ってくれているんじゃないか。

そう思えてならない。


そんな非科学的なことを信じるなんて馬鹿馬鹿しい、俺らしくないと言われようが。
写真を見つめるミヒの表情を見ていると、そう願わずにはいられなかった。

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