愛言葉
通帳と、携帯にお財布と鍵。
それから、彼の書いた本を出来るだけ鞄に詰め込む。
リビングに向かい、菫色の便箋にペンを走らせる。
別れの言葉は意識せずとも出てきた。
――――心から愛してる。
またね、雫。
さようならとは書けなかった。
臆病な私の強がりは本当に滑稽だ。
最後に、もう一度寝室に戻った。
まだ、眠っている彼の頬に長めのキスをひとつ。
温かい感触。
この思い出だけで、私はきっと生きていける。
それに、私には沢山の彼との思い出があるから。
大丈夫。
あなたは、幸せになれるから。
振り返らずに玄関まで歩き、外に出る。
鍵をおろし、あの花の下へ向かう。
一番小さな株から、ひとつ花を摘みティッシュに包み込む。