恋愛指導は秘密のくちづけで
「……もう行かなきゃ」


「柏葉、お前……。もういいよ。一人で大丈夫か」


溜め息まじりで塚越先生は言った。


「大丈夫です。それじゃ」


先生を残したまま、自転車置き場を足早にあとにした。


傘を閉じたまま来た道を歩く。


濡れながらカバンの中から赤いメガネを取り出し、かけた。


車道に出ると先生と乗るはずだったタクシーを見つけて飛び乗った。


「雨、ひどくなりましたね」


「そうですね」


営業的な声を運転手が発したので、わたしもつられて営業的な声でかえす。


車内が沈黙につつまれたとき、携帯の表示画面を開くと、万里くんの名前が浮んでいた。
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