俺が彼女を抱けない理由
この気温の低い中、あんな薄着でいつまでも外にいられる訳がない。


何度携帯に電話してもその度に留守電に切り替わる。


留守電にメッセージを残そうとした時キャッチが入った。


『もしもし拓?』


『親父?』


『すぐに帰ってこい』


あの時の電話と同じ親父の台詞に心臓の音が速くなる。



『葵、無事だよな?』



『とりあえず帰って来い』


俺は親父の言葉に返事もせず全力で走った。


大丈夫だよな?


葵、無事だよな?


空からは追い打ちをかけるように雪が降る。





もう呼吸が正常に戻らない。


『拓、乗れ』


『葵は?』



『いいから乗れ』


マナさんも一緒に乗り込む。


『親父!!』



『冷静になれ!』


『拓ちゃん。。』


今まで何も話さなかったマナさんが口を開く。


『さっき葵ちゃんのお母さんから電話があって。。』



『。。。何?』



『今病院に向かってるって。詳しいことはお母さんもまだ分かってないみたいだった。』


『何でだよ』



『まだ何も分かってないんだ。』


親父の声もマナさんの声も俺には何も聞こえなくなった。


聞こえるのは葵の声だけだった。
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