バーチャルウォーズ
マーク母子が話しているのを公男が黙って見ているので、雪美も父が黙っている間は黙っていようと思った。


マークは志願して出向してきたことや、母親を時間あるごとに捜していたことは言わなかった。
パティの様子を見て、母の心に負担をかけてはいけないと思ったのか、偶然を装っている。


そしてパティもずっとひどい雇用を受けながらがんばってきたことは言おうとしなかった。
親子なんだな・・・と雪美は思った。


「あ~とにかく、もう時間も遅いことだし今夜はパティさんは客間に寝てもらうとして、明日は休日でマークの引っ越しもせねばならない。

パティさんのことも雇用を含めて何とかするつもりだから、私にまかせておきなさい。」


「ねぇ、マークはどこの部屋を使うの?
咲の部屋は・・・使ってほしくないんだけど・・・。」


「そうか。咲の部屋はもちろんそのままにしておくよ。
うちの息子なんだからね。」


「パパ、ありがと。」


公男の命令でマークは輝人が使っていた部屋で眠り、翌朝早くから必需品の移動を始めた。


会話らしい会話がないままに、パティもマークの部屋の整理をして午後からパティは会社に出ることになっていた。


パティが公男と出社する前に雪美の部屋を訪ね、何度もお礼を言った。


「パティさん、パパも言ってたようにこれって運命なんですよ。
おふたり母子が離れ離れでもいっぱい思っていたから神様がご褒美くれたんです。

ちょうど私やパパがそれにかかわっちゃったってことです。
うちのパパも今は社長って言ってるけど、仕事を始める頃はものすごく貧乏で住むところに困ってたんですよ。

私が小さい頃もちっちゃな借家で、ママが私にご飯少なくてごめんって謝ったときもありましたからね。」



「そうだったですか。それで・・・だったんですね。
あなたくらいのお嬢さん、私のことを汚いって言う人ばかりだったのに。

息子でも久しぶりに会った言葉が『そんなおちぶれてしまったのか。』だったですよ。」


「ええっ!そんなひどい・・・。」


「いえ、あの子からしたら自分を捨てて幸せになるって出て行った母親がこんなだったからショックだったんです。

でも気持ちを落ち着けてからね・・・これからは僕がいい暮らしをさせてくれるって言ってくれて・・・。うれしいです。」


「ほんとによかったですね。」


パティは部品を製造している工場でパートをすることに決まった。
本人はフルタイムで働くつもりだったらしいが、マークが母親と生活していくために家にいてほしいと頼んだらしい。


2人で住む家も1か月後には決まって荷物も再び新居へと移動したのだが、マークはちょくちょく雪美の家に来るのだった。


そして咲とはときどきパソコンでやりとりしてはいたが、咲が専門的な勉強と飛び級で多忙になり、ネットゲームをするどころではなくなってしまったので、雪美はたまに一方的だと思いながらメールを送るくらいになり、時間だけが過ぎていった。


そして気がつけば高校3年の夏休みが来ていた。
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