優しい秘密
僕が6歳の時の話です。

幼稚園から一人で抜け出して、掛り付けの病院へ診察を受けに行った事がありました。

クラスメイトの話がまったく理解できないし、幼稚園の先生の言ってる事さえ分からなかくなりました。

『ナツ君!一人で来たの?偉いねぇ!喉痛いの?』

先生は診断書を見ながら

『喉から見てみよっか?口開けてぇ~アァ~ってぇ』

僕は先生に言った。


『先生、僕サバン症候群だと思います。』


先生はパックリと口を開けてたがその顔は笑いに変わった。


『はははー!知ってるよー。僕もテレビ見たよぉ!羨ましいったら失礼だけど、天才病だもん。先生も発症したいなぁ〜!天才か〜』

僕は自分のバックからプリントアウトした、資料を広げドイツ語で説明すると、

先生はパックリと口を開けたまま聞いていた。



今では『ナツ先生』と僕を呼んでいる。



もちろんこの事は母と僕と先生しか知らない秘密だ。


そして僕は、家族全員の健康状態ぐらい把握しているし母の体の事も分かっていた。


そして、学校では何事もなく、病気の事も気付かれずにすんだ。

緊張という呪縛から解放された。

というのも、前の学校で僕はこの病気について、いじめられた事があった。

子供は思った事をなんでも口に出す。


『おい!天才先生!この本逆から読んでみろ!読み終わるまで帰んなよ!』

『おい!天才!服脱いで見ろ!』

『ハハハ〜ばっかじゃねえの!自分でできねーでやんの!』

『おい!こっから飛んでみろ』

『ドーーーン!』

『ばか!やべ!にげろ〜!本当にとんだぞ〜!』

『いーけないんだーいけないんだ!…』

別にそれがいやって訳じゃないけど。

母が悲しむ。

僕自身、子供だし、別に他の子に馬鹿と言われようが、命令されようと、何とも思わなかった。

けれど、母は悲しんだ。

僕は何故かそれが悲しかった。 






僕は穴があるなら飛び込むタイプだった。








兄の事で分からない事が1つだけある。


ある日僕が寝ていると、夜中に兄が起きてゴソゴソと机の中から写真を一枚取り出した。


兄は、その写真を見ながらゴソゴソとチンチンを引っぱり、戻してまた引っ張り始めた。

まるで何かに取り憑かれたように繰り返していた。

僕は何故かおそろしくなり、寝たふりをしていた。

兄は何か小声で言うと小刻みに震えだした。


僕は勇気を振り絞って


『お兄ちゃん!!』


というと兄は、その場に倒れて嘘のように眠ってしまったのだ。

『おーにーちゃーん!!!」

やはり何度呼んでも、叩いてもお兄ちゃんは目を開けなかった。

僕はあわてて父を呼びに行った。



『お父ーさーん!兄ちゃんがちんちんから白い血出して倒れてる!早くぅー!!』


『きーてーぇー!』


もう僕は涙を流し、震えた声で叫ぶ。

『や〜だぁ〜血が白い〜』

父はドア越しに兄を見て僕を連れ出しこう言った、

『春は大人になる準備をしてたんだよ。』

『チンチンだして?』

『うん』

『お兄ちゃん寝たの?』

『いや、多分起きてる。』

『お兄ちゃんなんで倒れたの?』

『馬鹿・・・?』

『僕も大人になるー!』

『夏はまだ早いよ。好きな人いないからだめなんだよ』


『好きな人なら28人と12匹いるよ!』


『好きな人といってもいろんな好きがあるんだよ。』


『ナツがまだ逢った事ない人で、この娘、可愛いな、

 この娘、楽しいな、

 この娘といると幸せだな、

 この娘といると勉強になるな、

 この娘を守ってあげたいなって思う人がね。』


『お兄ちゃんの写真の中にもいるんだよ。お兄ちゃんは恋をしてるんだよ』



『僕まだ会ってない人?』



『いや、会ってるかもな、ナツがまだ気づかないだけかもね。

 恋っていうのはとても難しいんだよ。

 秘密だっていっぱいあるし、心も体も大人にならないといけないんだよ』



『ナツも恋したい!大人の準備!白い血出す』


『ナツ、大人の準備はね秘密にしておかなきゃだめだよ』


『そうか、お兄ちゃんとお父さんと僕の『秘密』だね』
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