ベストマリアージュ
いつもの口の悪いさとしからは想像できないくらい、優しい手つき。


シャキシャキと髪を切る音だけが響くさとしの部屋。


なんとなく、大きく鼻から息を吸った。


懐かしいさとしの部屋の匂い。


この部屋によく遊びに来た小学生時代を思い出す。


あの頃は、珠美ちゃん珠美ちゃんて、いつも後ろを付いて回ってたっけ……


あんなに可愛かったのに、なんでこんなに俺様的なキャラに育っちゃったんだろう?


少し重かった頭が、どんどん軽くなっていく。


髪を切っていた音が聞こえなくなったなと思った時、ゴォーという音が聞こえてきた。


きっとドライヤーだ……


てことはもう終わりかな?


目を閉じたまま、髪を乾かす手に身を任せていると、やがてさとしの手がバシッと私の頭をはたいた。


「……いっ…た!」


何すんのよ!と振り返れば、顎で鏡を見ろとしゃくってくる。


「出来たぞ、見てみろよ」


その言葉に弾かれるように鏡の方を見た。


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