二面相
だが そんなことにも目をつぶってしまうくらい、柏木は大樹の面倒をよく見てくれた。


彼には 年の離れた弟がいて、子供の世話には慣れている。


そんなことくらいしか、彼のことは詳しく知らない。


柏木は 多分、私よりも二つくらいは 年下なんだろう。




大樹は 二歳くらいから、柏木といつも一緒にいるが、 なぜだか、彼が父親だとは 思っていない。


出かけるときは いつも母子二人だけで 柏木は留守番だった。



彼は 引きこもりの気があるのかもしれない。一週間、部屋から出なくても苦にならないのだ。


コイツとは、あまり深入りしてはいけない。早めに追い出そう。
不満が溜まって、子供に暴力でも振るわれたら……。



関わっていくうちに、そんな不安も頭に過ぎる。



しかし、この柏木は「プライド」とか「焦り」とか、「責任感」とか言う言葉を持ち合わせていないらしい。



朝、仕事に向かう私が大樹を連れて部屋を出るときに、彼はテレビをみながら送り出す。

「じゃあ、行ってくるね柏木くん」


「あ、はいはい」


夜帰ってきても、全く同じ姿勢で同じ位置に座り、テレビをみている。


「ただいま、柏木くん」


「あ、はいはい」



「……」





大樹が小さい頃、よく面倒をみてくれた恩もあり、低堕落なヤツに ガツンと言えない 弱い私。

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