月下の誓約


 だが身なりから杉森軍の者である事はわかる。
 敵に捕らえられた女兵士が、尋問の末どんな辱めを受けるか、想像に難くない。

 募る不安と共によくない考えばかりが、和成の頭の中を去来した。

 せめて額と腕に巻いた自軍の印を外していてくれたら。
 そんな都合のいい事を願ってみた。

 紗也の姿を見つけられないまま、しばらく林の中を進むと、行く手で突然林が途切れた。
 街道はそこで大きく右に折れ曲がっている。

 空には顔を出したばかりの大きな月が見えた。

 月明かりに照らされた白い街道に人影がある。
 ちょうど曲がり角のあたりにひとりの敵兵がいた。

 部隊からはぐれたのだろうか。
 まだ若い新兵のようだ。

 和成の気配に気付く様子もなく、刀に手をかけて前方の何かを注視している。
 敵兵が足音を忍ばせてゆっくりと前進し始めた。

 嫌な予感が和成の全身を駆け巡る。
 敵兵が刃を向ける相手は、自分たち杉森軍の者だ。

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