月下の誓約


 和成が街道の先を見渡せる場所に移動するのと、敵兵が刀を抜いて上段に構えるのとが同時だった。

 月光に刃がきらめく。

 その狙いの先には街道脇の林を覗き込んでいる紗也の後ろ姿があった。


「紗也様!」


 叫ぶと同時に和成は駆け出した。
 声と足音に敵兵はようやく和成の存在に気付いたらしい。
 周りが見えていないと言う事は、やはり新兵なのだろう。

 一瞬立ち止まって和成を振り返った敵兵は、すぐに向き直り、紗也へ向かって駆け出した。

 自分の方に気を逸らせようとしたつもりが、紗也の方が討ち取りやすいと判断したのか、単に混乱しているだけなのか、思いも寄らない敵兵の行動に和成は焦った。


「紗也様ぁ――――っ!」


 刀を抜き放ち、和成は紗也に向かって全力で走った。

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