【続】隣の家の四兄弟

思わず口を開けたまま、チハルを凝視してしまう。
その顔を見たチハルは、くすっと笑って顔を近づけて言った。


「クチ。おっきく開いてるよ」


長身の身体を屈めるように、至近距離で囁くように言われて後ずさる。


「それじゃ、やる?」
「えっ!」
「スウガク」
「あっ、あ、ああ!」


バカ、美佳!なにをそんなに動揺することがあるのよ!
落ち着きなさすぎじゃない!もう!

バクバクと騒ぐ心臓のまま、チハルに背を向けてキッチンから出る。


「リビング(ココ)でやろうか?」


チハルの問いかけに小さく肩を上げて振り向いた。
ベランダから差し込む陽射しを横顔に受けたチハルは、キラキラ輝いてて眩しいくらい。


……いいのかな。チハルに勉強見てもらっても。


心の中では、まだ、聖二のことがある。
確約ではなかったとはいえ、それでも〝仮予約〟くらいの感じではいたと思うし……。
でも……。


アキラがポンと頭に浮かんでしまうと、素直になれない私は意地を張ってしまう。


「ミーカ?」
「あ、うん……じゃあ待ってて。今教科書とか持ってくる」


聖二のことを吹っ切るように、身を翻して部屋に向かう。
机の上でテキストやノートをかき集めてる間も、結局は聖二のことがずっと頭に残ったままだった。

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