【続】隣の家の四兄弟
そういうチハルを見上げると、さっきまでの人懐こい犬のようなチハルじゃなくて。
瞬時に男の人に変わってしまうのは、職業的なものなんだろうか。
ドキリとした私は、思わずまた余計なことを口走る。
「や!数学見てもらう予……定……」
途中で口を噤んだけど、もうほとんど言い終えてしまった。
チハルはおもむろに蛇口から水を出し、食器の泡を流しながら言う。
「……Matematica?(数学?)わかんないトコあるの?」
「……う、ん……具体的に『ココ』ってこともないけど……あんまり得意じゃなくて」
たどたどしく言葉を繋げている間に、チハルが手を洗って蛇口をきゅっと閉める。
そして手を拭きながらニコリとまた微笑んだ。
「ぼくもね。得意だよ。ニホンゴは苦手だけどね!だから、ぼくが少し見てあげる」
冗談混じりでウィンクしながらそういうチハルをぽかんと見上げる。
チハルが……勉強をみてくれる……?うそでしょ……。
だって、言っちゃ悪いけど、勉強とか普段してなさそうな……。
疑いの眼差しに変わった私を見下ろすチハルは、それに気付いてしゅんとする。
「ひどいなぁ、ミカ。信じてないデショ?」
「うっ。だ、だって……仕事とか……前からしてたんでしょ?忙しかったら勉強なんて」
「最初にイツキが言ってたでしょ。ぼくは仕事をめいっぱい入れることをしないんだ。勉強もニガテなものはべつだけど、Matematicaとかはわりと好きなんだよ」
へー!へー!そうなんだ!それは超意外だ。