【続】隣の家の四兄弟
隣の彼の略奪


「Buon giorno!」
「……おはよ」


朝から自分の家で緊張するなんて初めてかも知んない。

平静を装ってるつもりだけど、内心ドキドキ。
だからうまく挨拶出来てるかもわかんないし、目を見ることすら困難だ。


「ごめんね、ミカ」
「ぅえ!? なっなに!?」
「ぼく、もう出る時間なんだ。朝ゴハン一緒に食べられない」
「えっ」


あ……なんだ。そういうことか……。


「ううん。こっちこそ、知らなくてゴメン。なにか食べた?」
「コーヒーだけもらったヨ。やっぱりコーヒー飲まなきゃ一日がスタートしなくてね」
「そっ……か」


イタリアはコーヒーなんだ。
コーヒー苦手な私がそのイタリアに行ったらどうなるんだろ。いや、別に飲み物がコーヒーだけしかないわけじゃあるまいし。


「ミーカ」
「は、はいっ!!」
「ベツにそんなに姿勢正さなくても」


くすくすと笑って残りのコーヒーを飲むと、チハルはソファを立った。
そのまま近くまでくると、ふわっとコーヒーの香りとチハルの匂いが私に届く。


「ガッコ。いってらっしゃい」


そしてポン、と手を頭に置かれると、なんだかくすぐったい気持ちになって少し俯く。


「……うん。チハルも。行ってらっしゃい」
「いってきます。……あ、スタジオの場所、メールするね」
「え?あ、うん……」


爽やかにそう言って、チハルは本当にすぐ出掛けてしまった。
閉まった玄関を遠目に見て、「ふー」と息を吐く。
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