【続】隣の家の四兄弟

「あ! 美佳じゃん!」


聖二が何かを言う前に、その後ろから孝四郎くんが来た。


「わーい。この時間にいるってことは、一緒にご飯食べるんだよね?」
「あ…う、うん」
「あれ? 聖二にぃがキッチンに入ってるの珍しいね? やきもち?」


孝四郎くんは、チハルの存在にまだ気が付いてない。

私と浩一さんを見て、聖二に冗談を言うけど、当然――


「俺はそんなに余裕のない人間じゃない」


って、淡泊な、そんな答えが返ってきて。
まぁ、がっかりもしないけどさ。


「だろうねー」


孝四郎くんも同じく、予想していた答えだったみたい。


「コウ、その子、誰?」


チハルは、じっと孝四郎くんを見つめる。
孝四郎くんもまた、じっとチハルを見つめ返していた。


「ああ! さっき孝四郎は家にいたから、会ってなかったんだったな」
「コウシロウ? え? コウって子どもいたの?!」
「なーんでそうなるんだよ!」
「えー。だって、同じ“コウ”だから。それにコウに似てる」


そんなチハルの言葉に、なるほど、と思ったり。

私も、見た目が浩一さんと孝四郎くんは似ていると思うし、名前も言われれば、読みが同じ部分あるもんね。

…中身は全然浩一さんには似てないんだけど。


「まぁ似てて当然だろ? おれの3人目の弟だから」
「えっ? まだ下にいたの?」


チハルは目を大きくして驚くと、もう一度まじまじと孝四郎くんを見ていた。

まるで品定めされているような気持ちになったのか、孝四郎くんはなんだか不機嫌そうな顔になってきている。


「…ちょっと。そんなに見なくてもいいんじゃない?」


そうして孝四郎くんがチハルに初めて言葉を投げた。


「Io sono spiacente(ごめん)、つい」
「あんたが、さっきの騒動起こした“チーちゃん”か」
「Uh! そんなふうに言われてたの? ぼく」


わざと大袈裟にしゅんとしたように答えるチハルを見て、孝四郎くんは至って冷静に、淡々と返す。


「――いつまでいるの?」





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