【続】隣の家の四兄弟

「今日、どうして私を誘ったの――?」


なんとなく流れで聞くことが出来た。けど、聖二の顔はなんか見ることが出来なくて、冷やしてる自分の手をずっと見る。

カラン、とボウルの中で響く氷の音だけ聞こえる。


聖二――なんか、答えてよ!


「『ルーズ』って言われたままだからな」
「はっ? ――――あ」


色々あり過ぎて忘れるとこだった!
そうだ! 今朝、ベランダで言ったこと、ちゃんと誤解解いてなかった!!


「ちがっ、それは、」
「随分、生意気言うじゃねぇか…」


ひ、ひぃーー‼


隣からいつもよりさらに低い声が聞こえてきて、私は恐怖でその場から逃げたかったけど、聖二に手を掴まれたままだから動けない。


「ご、ごめ」
「悪いな」
「――えっ……」


謝りかけた私よりも先に、聖二が謝った。


な、なんで? 聖二が謝るの?


きょとんとした顔でいると、聖二と目があった。
そして、聖二が先に目を逸らして言う。


「兄貴みたいに、笑って喜ぶようなこと言えない。俺は」
「へ?」
「幸四郎みたいに、敵対心剥き出しにもしないだろうし、三那斗みたいに、真っ直ぐぶつかっていくことも出来ない」
「ええ⁈」


ちょっとちょっと!
何を急に言い出すの?


「また、同じようなことを繰り返すのかも――」
「そんなことないよ!」


聖二はやっぱり過去の恋愛を引き摺ってる部分があるんだ。
それは前の彼女への未練とかじゃなくて、自分自身に。


「だって、現に今、前の聖二とは違う。頑張って、色々伝えようとしてるんだよね?」


少し驚いた目で、聖二は私を見た。


「私もそんな聖二の言いたいこと、ちゃんとわかってあげられるように、頑張るし!」
「…………ぷっ」


え! なんで笑うの? ここ、全っ然笑うとこじゃないんだけど!


「ああ、悪い……」
「……なによ。どうして笑うのよっ」
「いや――やっぱ、俺みたいなヤツにはお前みたいなのが合ってるのかも」


お世辞にも、優しい笑顔じゃなかったけど、その不器用そうに笑って聖二がいうから私の顔はまた熱くなった。



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