【続】隣の家の四兄弟
聖二の心は、私と違ってなかなか覗くことが出来ない。
それでも気になっちゃうのは、やっぱり聖二が特別だから。
私がキッチンから黙って聖二を見ていると、急に聖二がこちらを向いた。
「――鍋、噴きこぼれないのか?」
「えっ! あぁっ!!」
お鍋の近くにいたのは私のはずなのに、遠くの聖二が音の変化に気がついてそう言った時にはもう遅くて。
「あっ、つ!!」
慌てて火を止めようとしたら、お鍋の取っ手にぶつかった。
ひっくり返りはしなかったけど、お鍋の中のお湯が波打って自分の手に掛かった。
もう。何してるんだろう。ほんと、ダメなとこしか見せてない気がする…。
赤くなった右手を見ながら、頭ではやけに冷静にそんなことを考えてると、うずくまる私の背後にいつの間にか聖二がいた。
「バカ! 早く冷やせ」
そういって、私の体を起こしてシンクへと手を伸ばす。
聖二が私の右手を背中から回した手で掴みながら、二人で流水を見つめる。
こんなに密着したことって、普段ないから――私の顔は、火傷をした右手と同じくらい赤くなってるかもしれない。
「氷水につけといた方がいいかもしんないな」
耳元で聞こえた声に、ますます心拍が上がり、耳も熱くなる。
そんな私とは対照的に、迅速かつ冷静に、聖二が氷をボールに入れて持ってきてくれた。
「痛くないか?」
「あ、多分…冷えてて感覚ないや」
「ったく」
「……ねぇ、なんか、今日の聖二ってほんとに聖二?」
「はぁ?」
再び私の隣に並んで心配そうにしてくれる聖二に、つい心のまま口にしてしまった。
またやってしまった。もっと違う言い方があるのに。
そう後悔してももう遅い。
「じゃあ誰に見えるんだよ」
短い溜め息と共にそう言われる。
「み、見た目は聖二だけど…なんか今日の聖二、想像できないことを言ったりするから」
もしかしたら、これ、夢なんじゃない?
そう思ってしまうほど、聖二の行動や言動が普段からかけ離れていて。