製菓男子。
ツバサくんはある人のために、女装をはじめたのだという。
おそらく「リコ」という女の子のためだ。
理由はよくわからないけれど。



『あの、その、おねえさんは占い師って聞いたんですけど、折り入って占ってほしいことがあるんです』

(どうしたらリコと前みたいな関係に戻れるのかな。リコの気持ちが見えればいいのに)



わたしを占い師だと本当に思っているかどうかはわからないけれど、ツバサくんは、そう言い、そう思っている。


それはわたしがもう一度ツバサくんの手に触れて、わかるようなことではない。
なにせわたしは少し先のことしか見えないし、触れた人の気持ちしかわからない。
ツバサくんの願いを叶えるためには、その「リコ」という女の子の手にわたしが触れなくてはいけなくなる。


人の少し先の未来と気持ちがわかること。


それは犯罪のようだと、罪の意識に雁字搦めになる。
わたしだってどろどろした汚い気持ちがないわけじゃないし、だれもが持っているものだと思う。


妬み嫉み恨み。


隠している気持ちが見えるのは、気分がいいことじゃない。
見られる側も、見る側も、いいことなんて、ひとつもない。


それが今までの経験則でわかっていて、だからツバサくんの申し出を断った。
家も近かったし、ツバサくんの持ってくれた買い物袋を奪って、逃げるように玄関に入った。


(本当はもっとお礼を言いたかった。重いものを持ってくれてありがとう。わたしのつたない会話を一生懸命聞いてくれてありがとう)


わたしの会話スキルが、日常的に富士山の五合目くらいまであったなら、別の断り方ができたのだろうと思う。




< 151 / 236 >

この作品をシェア

pagetop