製菓男子。
「ご所望のお品です」


ソファー前のローテーブルに置いた。
ソファーの方が高いので食べにくいだろうが、見たところ普段使っているテーブルの椅子に座れるほどの体力を兄は持っていないようだ。


「食べさせてくれねーの?」
「わたしは兄さんの、お母さんでも彼女さんでもないですよ」
「ふーん、そういうこと言うんだ」


兄は卑しげににやにや笑っている。
いやな予感しか働かない。


「チヅル、バイト順調みたいじゃねーか。ミツキから聞いてるぞ」
「順調かどうかはわからないですけど、続いてはいます」


話の方向が行方不明だ。
食べさせることとバイトとどんな関連があるのだろう。


「バイト代、入ったんだろ?」


兄の瞳が鈍く動き、そうでいて刃物のように鋭く光る。


「生活費入れろや、チヅル。いくらもらってるかはしらねーけど、最低一万な。庭弄り代くらいにはなンだろ。過去を遡るとえっと、今は五月だから」


わざとらしく兄は指を折りはじめ、上機嫌に「二十五ヵ月分」と言う。


「一気に払えとは言わない。分割でいいぞ! なんてやさしいんだオレ!」


自分に酔っている兄に「払わなかったらどうなるのか」訊ねる。


「うーん、家出てみる? ひとり暮らしするのもいい機会かもしれないしな。部屋探しで業者との会話ができるし、今より人見知り直るンじゃないか? “虎穴に入らずんば虎児を得ず”つーだろ」


(なんと無謀なことを兄上はおっしゃられる! 今の給料で家賃なんか払えるかっ!)
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