製菓男子。
「―――ああ、そういうことだ。チヅルが見たんだから、間違いないだろ」


わたしの後頭部にぽんとだれかが手を置いた。
その手は兄に間違いがなく、振り返るともう一方の手でスマートフォンを持って耳に当てている。


「若葉高校の制服ってことはさ、そこの高校だろふつー。起きてからじゃ遅いんだから、通報しとけ、通報! ン? 詳しい場所? 確かにあそこの高校も広いからな。校門で待ってろなんて、確かにできねえよな」


兄はだれと電話をしているのだろう。


「チヅル、詳しい場所わかンねえかな?」
「場所?」
「なに寝ぼけてンだよ。さっきの少年が落ちる場所!」


音楽室は職員室などが入っている本館四階の一番端にある。
その本館を中心に、各教室が入っている四階建ての一号館と二号館、特別教室等が入っている三階建ての理科棟、そして体育館と、四方向に連絡通路が伸びている。


体育館でないことはわかる。
それは言わなくても兄にはわかっているだろう。


「わたし、ほとんど教室ですごしてたから―――」


学生時代のわたしは義務的に移動していただけだから、まわりの景色なんか見ていない。
以前窓の外を眺めていたら、背中を押され落ちそうになったトラウマによる。


(する人はからかっただけなんだろうけど、わたしにとってはドライアイスみたいな恐怖だったさ)


――――肝心なところで、わたしは役に立たない。


肩をがっくり落とすわたしに「まぁ、そうだろうと思ったけどな!」と兄は追い討ちをかけた。
だったら聞くなと卑屈になる。
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