製菓男子。
「―――……だめだよ、このままじゃ大怪我になる」


手に触れたまま、見たままをツバサくんに伝える。


「そうかもしれません。でも、ぼくは、リコを見つけられるんですね」
「リコちゃんは見つけられるかもしれない。でも、見つけなかったら、ツバサくんが行かなかったら、リコちゃんは階段から落ちることはないんだよ」
「でも、放っておいたら、もっと最悪なことになるかもしれないでしょ」


わたしの見た未来は不可避だとわかっている。
無駄な抵抗だとわかっていても、反抗したい。


「ならないかも、しれないじゃない」


わたしは強くツバサくんの手を握ったけれど、わたしは非力で、ツバサくんの払う手を追えない。


「いやなところを見せて、すみませんでした。でもぼく、行きますね」


立ち上がったツバサくんは、わたしと兄に向かって大きく一礼してドアから出ていった。
すがるようにあとを追ったけれど、わたしがどんくさいのか間にあわない。
ツバサくんはここに自転車で来ていたようで、県道に向かって走り去っていった。


(ああもう! わたしって、どうしてこうなんだろう!)


自分の血液が涙でできているんじゃないかってくらい、飽和した涙がとめどなく流れる。


(ただ見ているだけで、なんにもできない)


わたしの骨も涙でできているみたい。
わたしの身体は立つことができなくて、地面に染み込んでいくようだった。
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