製菓男子。
藤波家につくと、藤波兄妹が庭の芝生の上で向かいあうように座り込んでいた。
藤波が僕に気づくと手を上げて応えてくれる。


「呼び出してわるいな」


まったくもってそのとおりだ。
この忙しいときに。


藤波はまた妹の顔を覗き込んだ。


「いいか、チヅル。これから宮崎の手を握れ。宮崎の手を握れば、少年の居場所がわかるかもしれない」
「だめだよ! そんなことしたら、宮崎さんを不幸にしちゃうでしょ!」


藤波さんはこぶしを興奮気味に芝生にたたきつけている。
涙に濡れた声が、全身を震わせているようだった。


「そンなンはもう、少年の手に触れた時点で決まってンだろーが。当然宮崎の未来も決まってる。少年が階段から落ちて、怪我をすることだ」
「わかったように言わないでよ! 違うかもしれないじゃない!」
「さっきの少年も言ってただろ。違うってことは、それじゃないってことだ。それがわかれば、選択肢がひとつ減る」


話を察するに、“藤波さんが僕の手を握ればツバサの居場所がわかるかもしれない”ということなのだろう。
そしてそれは、“僕に訪れるだろう不幸らしき未来”でもある。
おそらく、彼女が店でも極端に人の手に触れない理由は、そこにあるのだろう。


「オレはチヅルのこと、少なくとも人よりわかってる。だからこそ言える。お前が不幸だと思ったことは、オレにとってみたら不幸だったことは意外に少ない」


思わず僕は「フォローになってない」と口を挟む。
妹も案の定「意外に、ってことはあるってことじゃない」と反論し、突っ伏して泣きはじめた。
藤波は妹の取り乱し方に対応できないようで、気が動転している様子だ。
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