製菓男子。
「事情がよく、わからないけど」


僕は腰を折って、藤波さんと同じ視線になるようにしゃがむ。


「その人の未来を、不幸だと決めつけるのは、早計」


藤波さんはびっくりするくらいに俊敏に、僕の顔目がけて振り返った。
藤波さんは、雨に打たれた白百合のような顔で「早計じゃない!」と掴みかかるように叫んだ。


「月曜日だけは違うんです!」


彼女は半ばのろいの呪文ように、その理由を話しはじめた。


「ねえ、疑問なんだけど、きみの母親が離婚届けを突き出したとき、父親は不幸なの? これですきな人と結ばれるって思ってたんでしょ。だれにとって不幸なの?」


事故の少年は確かに不運な生涯だったのかもしれない。
けれどそれは周りが後づけしたもので、不幸だから死んだわけではない。
自殺した教師も、そこに至るまでの結果が“人から見て不幸だ”ということで、実際の理由はわからない。
気持ちというものは本人しかわかり得ないのだから、他人が決めつけるべきことではない。


「藤波さんが見た一瞬の判断で、僕の気持ちを決めつけないで」


藤波さんの瞳が風に靡くように揺れている。
薄く開いた唇は咲いたばかりの薔薇のようにみずみずしくて、吸い込まれそう。


その表情をしばらく見つめていると、いさめるような藤波の視線が鋭く突き刺さる。
このシスコンめと、思わず吐息をつく。
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