製菓男子。
「藤波さんはわるくない。僕は不幸になんてならない。信じて」


どの言葉が琴線に触れたのかはわからないが、藤波さんは息を飲んだあと、手を差し出した。
その手は白磁のように、うつくしい。


「触っても、いいですか?」
「もちろん」


藤波さんの手は冷たかった。
もしかしたら僕の体温が、高いだけかもしれない。
僕の心臓が音を立てて緊張しているから。


「―――救急車が、理科棟の前で止まっていました。担架にはリコちゃんが連れ添っていて、先生たちに雑じって塩谷さんもそこにいて見守っていました。宮崎さんは「これは藤波さんのせいじゃないよ」って、わたしの身体を支えていました」


それを聞いた藤波が弾かれたように電話をかけた。
そして、僕に向かって車のキーを放った。


「チヅル連れて行け。こう見えてオレ、高熱なんだよ」


チヅルを任せたと言って、藤波は電話に集中する。
繋がったのか、「場所がわかった」と告げていた。




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