製菓男子。
棚に置いてある目覚まし時計は四時半。
確かこの時間にリコちゃんが校章のない制服を着てやってくる。
その制服はたぶん、わたしが渡したものだ。


「どうしてわかるんですか?」
「ごめんなさいっ、あの、お菓子を作る前に、その、実は宮崎さんに触れてしまって」


手首を掴まれたのだけれど、その実、手の甲に宮崎さんの指が触れてしまったのだ。
わたしは希望通りツバサくんを宮崎さんと一緒に見舞うことができて、リコちゃんに初めて会える映像がぽっと灯ったろうそくの明かりのように浮かんだ。


「わたしが見た未来は絶対だし、そのときの宮崎さん“困らせるつもりじゃなかった”と思っていて、たぶんあのタイミングで告げることは、よくないんじゃないかって―――宮崎さん、いやですよね、こういうの―――ごめんなさい」


頭を下げて謝るとその頭部に「気にしないで」と手がぽふっと乗っかった。


「おおう、ゼンくん! ゼンくんもそんな甘ったるい顔ができるんだ。なんだか感動しちゃう」
「ツバサ、うるさい」
「照れるゼンくんも初めて見たかも」
「だからうるさい」


わたしの頭上で会話が繰り広げられている。
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