あなたが教えてくれた世界
アルディスは静かに目を閉じた。
次の瞬間、彼女の中に雪崩のように人々の感情が流れ込んできた。
しかし、いつものようなパニックは起こらない。
確かにそれは直接響いてきたけれど、アルディスはそれを、自分とは関係ないと一枚膜を隔てたような気分で感じていた。
周りの出来事を自分とは関係ないこととして、自分から素通りさせるだけで、それまでの苦しさがどこかに飛んでいったようだった。
──なんだ、初めからこうしてれば良かったんだね。
アルディスはそう思ったが、一枚膜を隔てたところにある、彼女の能面のような表情に変化はない。
……こうして、苦しみから逃れる術を覚えたアルディスは、
その日以来、一切の感情を表に出さなくなった。
(……ずっと、そうして来たのに、どうして……)
本日何度目かになるその疑問符と、知らず知らずに噛み締めた唇の痛みで、アルディスはゆっくり、回想から今に引き戻された。
自分でも、何がどうなっているのかわからない。
あんな騎士一人くらい、これまでそうして来たように、その存在を素通りさせれば良いだけなのに……。
なんで、こんなにも意識して、過剰に反応してしまうのだろう。
当のイグナスと言えば、少し離れたところで、集めてきた枝や木切れが焚き火となるように積み上げている。
アルディスはそれを認識すると、ゆっくりと立ち上がり敢えてそれとは反対方向に、雨の様子を見に行く、ふりをした。
……本当は雨なんて見るつもりはないのだが、イグナスを、視界に入れないために。