あなたが教えてくれた世界
静かな部屋に、オリビアのすすり上げる音が響いた。
「オリビア、あいつの言ったことなんて気にするな。オリビアはよくやっている。アルディス様の心の支えになっていること、僕が保証する。だから……」
「違うの」
ハリスがさらに続けようとした言葉はしかし、急に張り上げられたオリビアの声によって遮られた。
「…………あの人の、言ったこと……間違ってない、のよ?」
一瞬の間のあと、絞り出すように漏れた声はか細い。
「私は確かに、アルディスとリリアスが一つになればいいと、いつまでもこのままではいられないと、そう思っていたわ……。……でも、それだけだったの。思うだけ、それだけで、変えようとなんて、何も、してなかったの……。」
「……」
ハリスは黙って、オリビアの言葉に耳を傾けた。
「さっき……さっきね、リリアスがあらわれたとき、私……あの子が笑ったのを見て、一瞬、ぞくっとしたの。……怖いと、思ったのよ。あの子を。あの人が言ったように、そうさせたのは、私なのに……!私、私は、アルディスのために何か出来ていたの……!?アルディスを押し込めていたのではないの……!?私、あの子の姉、失格だわ……!」
オリビアの、血を吐くような叫びが響く。
ハリスはたまらず、その細い躯を抱き締めた。
彼女の悲痛な叫びも、抱え込んだ重責も、止めどない後悔も、まるごと受け止めるように。
「オリビア……駄目だ。それ以上は。自分を責めてはいけない。それは、君を姉として慕っているアルディス様をも、否定してしまうのと同じだよ。」
ゆっくり、諭すように言葉を連ねていくと、強張っていた彼女の体から徐々に力が抜けていくのがわかった。
「君がいなければ、きっとアルディス様は今ごろ、もう一つの人格に食い潰されてしまっていた。君がとりもっていたお陰で、ああして二つがバランスをとれているんだと、そう思うよ。」
「…………」
きゅ、とオリビアが静かに、縋るようにハリスの服を掴む。
「もちろんこのままじゃいけない。けれど今、アルディス様が壊れていないのは君のお陰なんだ。……これからどうするかは、これから考えていけば良いだろう?」
「……ハリス……」
「僕は、君がしてきた事を知っている。自信をもって。ね?」
ハリスがそう囁くと、彼女は静かに肩を震わせ。
それから、張りつめていた糸が切れたように、堰をきったように、声を上げて、泣き始めた。