あなたが教えてくれた世界



暫くすると、泣き疲れたのかハリスに体重を預ける形になったオリビアから、規則正しい息遣いが聞こえ始めた。


「……オリビア?」


彼女が倒れないように支えながら、ハリスはそっと体を離し、顔を覗き込んだ。


「……ああ、寝ちゃったのか」


道理で呼吸が規則正しい訳だとハリスは納得する。


よほど疲れていたのだろう。眠り始めてから少ししか経っていないはずなのに、その寝息は深い。


(……オリビアは、ずっと、気を張っていたんだろうな……)


自分たち騎士がアルディス奪還のために屋敷に潜入している間、彼女はどんなに不安な思いをしていたのだろう。


彼らが戻ってきた時の彼女の様子を、ハリスは思い出した。


イグナスに担がれたアルディスを見付けて、一目散にそちらに駆け寄ったオリビア。無事な事を確認すると、アルディスを起こさないように声を押さえながら、力が抜けて座り込んでしまっていた。


その様子からも……いや、ハリスが知っているオリビアのどれを見ても、アルディスに対する深い愛情がありありと伝わってくる。


だから……もう、その彼女を否定なんて、させやしない。


自分にそう誓うと、ハリスはふう、と息を吐いて、それからオリビアを起こさないように静かに抱え上げた。


それから部屋を出て、隣の部屋──アルディスが寝ている部屋に入る。


奥のベッドに、オリビアに寝かしつけられたのだろうアルディスが眠っていた。


ハリスはその隣のベッドの横まで行くと、そっと彼女の体を横たえる。


その頬に残る涙を見て、ハリスは言い様のない息苦しさに襲われた。


──見て、いられない。見たくない。これ以上彼女が傷つく所を。


ハリスは何も言わず、オリビアの頬に手をあてがって、その涙を拭った。


「……おやすみ、オリビア。」


そう囁いて、体を起こそうとして。


「……?」


微かな違和感。


そっと視線を下ろすと、彼女の指が、しっかりとハリスの服を掴んでいたのが見えた。



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