あなたが教えてくれた世界
大通りに出たところでそう声をかけると、アルディスは小さく頷き、一歩ブレンダの方へ寄った。
興味深そうに町並みを眺める様子を横目に、連れ出して正解だったと内心で思う。
「アルディス様、何か見たいものがあったら何なりと申し付け下さい」
「……はい」
やはり、小さく頷きを返すアルディス。
その様子を確認してから、ブレンダは視線を前方に戻す。
自分よりも高い位置にあるその横顔を眺めて、アルディスは戸惑いにも似た感情に襲われた。
隣にいる彼女からは、純粋にアルディスを慕い、彼女を気遣う感情が伝わってくる。
──どうして昨夜、騙していたことを告げたにも関わらず、態度や想いが、変わらない?
彼女の隣にいて感じるのは、純粋な、純粋な好意。
アルディスを傷付けてきた、憎しみや怒りなどの負の感情ではないはずなのに、何故か、何故だか、居心地が悪い。
(……私は、この人から軽蔑されてもおかしくない、のに……)
胸に巣食う罪悪感が、じりじりと痛みを訴えて来る。
考えに囚われ、アルディスの歩みが、今にも止まりそうになった、その時。
「……ん?」
不意に、ブレンダが前方を見つめながら怪訝そうな声をあげた。
それにはっと我に返ったアルディスが顔を上げると、ブレンダが端正な眉を潜めているのが目に入る。
「……アルディス様、申し訳ございません。少しの間、ここで待っていて頂けますか」
ブレンダはその表情のまま、不意にアルディスに向き直ってそう言った。
「わかり、ました」
状況は読めなかったがただならぬものを感じ、アルディスは素直に頷く。
「すぐに戻ります、何かあったら大声で呼んでください」
「は、はい」
何事か必死な様子に、アルディスは押されながら頷く。
「……すみません。それでは少し、失礼します……」
申し訳なさそうにそう言って遠ざかっていくブレンダの背中を、アルディスはその場で見送った。