あなたが教えてくれた世界


「現在イルサレム軍は苦戦を強いられてい ます。この状況が続くと、負けるという可 能性も少なからず出てくるのです」


「陛下、今こそ逆転の時です。ディオバウ ンごときに負けるなど、イルサレム皇国の 名に傷がつく大失態」


「大体陛下はソーパウロの価値を正しくご 存知ない。あそこが手に入れば国益も豊か になり、景気もすぐに回復するのですよ」


バランディウム候、カリナルセ伯、シドニ ゥス公は早口にまくし立てる。


フレグリオは顔を背けた。全部知っている と叫びたかった。


現在、イルサレム皇国は隣国のディオバウ ン王国と、小国ソーパウロをめぐって戦争 をしている。


ソーパウロは、50年前にディオバウンか ら独立した、山に囲まれたのどかな国であ る。


近年、ソーパウロを巡る山に莫大な鉱山資 源が眠っている可能性が発見され、フレグ リオの前の代からディオバウンと争い続け ているのである。


戦況は芳しくない。数ヶ月前までは五分五 分……いや、イルサレムの方がわずかに優 勢ではあったのだが。


しかし、二ヶ月前にディオバウン国王が急 逝し、代わって座についたのが攻撃的なこ とで有名な王子だった。


そこからディオバウンの巻き返しが始まる 。イルサレム軍はじりじりと撤退し、現在 この宮殿のある皇都付近まで戦火が迫って いると言う。


国民の意見は二つに割れている。国の労力 や税金を戦争に使えと言う意見と、勝てる 見込みが無いので話し合いにより安全に解 決して欲しいという意見。


皇王の行動そのどちらにもついていないの で、にわかに不満が沸き立っているらしい 。


フレグリオ自体は話し合いにより安全に解 決したい派だ。


もともとソーパウロはディオバウンのもの だったのだから、こちらが無理に奪う必要 はない。彼の持論だ。


しかし彼が行動を起こそうとする度に、武 装派の貴族……特にシドニゥス公爵の事だ ……がそれを邪魔するのである。




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