夜桜と朧月
「………でね。ほら、お姉ちゃんと私に、お母さんが買ってくれたお雛様が物置にあるでしょ?それをね、咲希と多希の為に飾ってあげたいの。こっちの家に。違う、そっちの家じゃない。お姉ちゃんのお仏壇の横に。近いうちに取りに行っていい?」

電話で捲し立てる私に、父は鳩が豆鉄砲を喰らったようにぽかんとしている。のが携帯越しに見えるようで笑える。



『いや……、持っていくのは構わんが、薫君は何て言ってるんだ?そんなのお前の一存で決めたらイカンだろう?』


ああ、もう!!


「薫は是非そうして欲しいって言ってるの!お姉ちゃんだって安心するからって!」


「……………。」


暫しの無言。

あれ?私何かおかしい事言った?

『真愛。薫君に代わりなさい』

え?お父さん、口調が改まってるけど、何でよ?



早く、と急かされて、お風呂から上がったばかりの薫に携帯を渡した。



「なんかね、お父さんが話したいって……」

「おぅ」

短く返事をして、薫が電話に応じた。


お父さん、どうしたんだろう?

「お久しぶりです。お正月は……」

うん、差し障りのない挨拶。

「え、はい。もし、お義父さんさえ宜しければ……。子供達もあいつも喜びますし、できれば是非……。え?あ……ありがとうございます。……へ?……あ、あー……そうですか……」




そこまで言うと、私をちらりと見て、寝室に行ってしまった。


なんだよ。私に聞かれたくない話なの!?
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