奪取―[Berry's版]
 もどかしさを感じながらも、喜多は指を咥え見ていることしか出来なかった。結局は、箕浪自身が乗り越えるしかない壁であるからだ。だが、ひとつだけ。喜多は心に決めていた。自分だけは箕浪を裏切ることは決してないと。喜多と箕浪、ふたりは陰と陽……まさに北と南。対のような存在だったからだ。

 1年前、箕浪が祖父から古本・貸本店と探偵事務所を譲り受けた際。喜多も事業に携わることを決めた。それまでも、時折ふたりで祖父のアシスタントのようなことはこなしてきていた。故に、喜多の決断に箕浪が抵抗を示すことはなかった。
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