奪取―[Berry's版]
 喜多とて、将来を考えれば無作為に相手を選べる立場ではない。もしかすると、自分の地盤を揺ぎ無いものにしてくれるようなバックを親に持つ娘と結婚することになるかもしれない。先を視野に入れ考えたとき、喜多の心は制御される。箍を外すわけにはゆかないと。
 健康な男子ゆえの悩みを発散することはある。だが、それは相手も承知の上でのことだ。春花とのことも、ある意味それに近い関係であることは否定できない。それでも、喜多には春花との関係が心地よく感じていた。自身の内側を探ろうとせず、たゆむことなく僅かな緊張を残すこの関係が。適度な距離感が。
 胸の奥底で、未だにじわりと熱を持ち燻っている情熱を隠すためは、誤魔化すためには。喜多には適当であったのだった。

  
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