奪取―[Berry's版]
 残りの人生を、地面を踏みしめながら、ひとりで生きていこうと決めた絹江には。自分には不要だと思い込み、胸に残る思いが風化してゆくことを望み、待っていた絹江には。人を恋しいと、愛おしいと思う感情はどんなものだったか。胸を張って宣言できるほど鮮明に思い出せずにいるのだ。
 喜多の胸に飛び込むことは簡単だ。絹江の両親も、見合い話を持ってきた祖母も手放しに喜ぶことだろう。が、それでいいのだろうか。流されているだけではないのか?
 あの日から、絹江は悩み続けていた。


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