奪取―[Berry's版]
 居た堪れなくなった絹江は、苦笑を返してから食事を再開した。

 正直、絹江は混乱していた。
 大学卒業後から、恋愛に遠ざかってきた絹江には、この関係が酷く不安定なモノに感じられてならないのだ。感情にだけに支配されたこの関係が。これ以上ないほどに愛を囁かれ、悪い気はしない。相手は喜多だ。気心の知れた相手でもある。それに……。
 ネックになっていたはずのセックスも、喜多と肌を重ねることには、苦痛を感じない。それも、また絹江には問題のように感じられる。
 なぜなら、喜多を愛しているのか、恋しているのか?と聞かれると、直ぐに頷けない自分が居るからだ。分からないと言うのが、一番今の自分の思いに近いように思える。
< 157 / 253 >

この作品をシェア

pagetop