奪取―[Berry's版]
 先日、喜多が宣言したとおり。あの日から、喜多が絹江を待ち伏せしていることはなくなっていた。今日で、4日目。喜多との関係が始まってから、初めてのことである。
 思っている以上の気落ちを自覚し、絹江は思わず額に手を当てた。喜多と再会し、愛の告白を受けてから、絹江の感情は揺れていた。小波にたゆたう小船のように。誰に言われたわけでもない、それは絹江自身が十分に理解していたことだった。
 理由は明確だ。十年以上、漣さえ立つこともなく、穏やかにと努めてきた絹江の心に、前触れなく鳥が迷い込んできたせいだ。それは好きなように振る舞い、波を立てる。仕舞いには、誘惑するかのよう綺麗な声でさえずるのだ。

「絹江さん」

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