奪取―[Berry's版]
 目の前で。それこそ、互いの鼻先が触れそうなほどの距離で紡がれた言葉は。蕩けそうにも甘い愛の告白か、待ち受けるは鳥篭の中だという最終宣告か。目を瞠る絹江を前に、彼は顔を埋める。絹江の首筋に。
 ざわりと、舌がなぞる感触に。全身が粟立つのを、絹江は感じた。

 ※※※※※※

 絹江の毎日は、長襦袢に襟芯を通すところから始まる。羽織った襦袢の背中心を掴み、衣紋を抜く。前日のうちに、時間を掛け決めておいたコーディネート。ハンガーから下ろし、それに袖を通す。
 ある意味、特別となる本日に合わせて絹江が選んだのは。深い紫色の地に、絞りと多色で辻が花が柄付けされている訪問着だ。地の全体には金糸も織り込まれ、光の加減で表情を変える絹江のお気に入り。帯は綸子のクリームホワイトの袋帯。淡い色合いの帯揚げと、仕上げに帯と同系色である帯締めの丸ぐけを結んで。
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