奪取―[Berry's版]
 自分だけが知っているはずの。自分だけのものだと願った絹江の背中が、大きく、大胆にも顕になっていたからだ。柔らかな生地は、首から腰までが大胆に大きく開かれているデザインのものであったのだ。

 知らぬうちに、喜多の両手に力が入る。隣に居た春花が固く握り締められているそれに気付き、袖へ手を添えた。喜多の顔を覗き込み、小さな声でどうしたのかと問う。しかし、その声も、喜多の元まで届いてはいなかった。いや、聞こえてはいたのだろうが今の喜多に答える意思はなかったのだろう。
 目の前にいる男性が、絹江の耳元に顔を寄せ何か言葉を掛けた。どこか、後ろに居る喜多の存在を気にしながら、絹江も言葉を返す。

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