奪取―[Berry's版]
3.記憶
 駅から徒歩5分。立ち並ぶビルのひとつ、そこの最上階に絹江の職場はある。個人の経営する小さな呉服店が主催し、場所を借りて。数名の講師と共に、着付け教室を任されているのだ。

 スタッフが集う控え室で昼食を終え、絹江は再び自分の持ち場である一室へと戻る。ドアを開け、顔を覗かせれば。既に生徒数名が衣装敷きを広げ、準備を始めていた。
 絹江が現在任されている教室は、初心者を対象にしたものである。午前と午後の2時間ずつに加え、18時以降から始まる夜間教室も週に数回担当していた。初心者向けのそれは、着物の畳み方から名称すら知らない人もやって来る。
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