奪取―[Berry's版]
だが、数回の受講の後に、自身の手で帯を締め上げた着姿を鏡に映し、嬉しそうに頬を染める生徒を目の当たりにすると。絹江は心がほっこりとするのだった。自分が着物に魅せられた時の記憶を、生徒の姿を通し思い出しているのだ。

 ひと教室は、大まかに5~6人程度で行われる。多くとも10人未満。それ以上は目が行き届かなくなるからだ。今日も、6人の生徒を予定していた。各々が襦袢の襟芯を通したり、補正の準備を進める姿を眺めながら。絹江は床へ腰を下ろし、名簿を確認していた。
 ふと、傍らにあるテーブルの上に置いた携帯電話が、点滅を繰り返していることに気付く。手に取り、表示画面を確認すれば。メール1件の文字が。クリックし、送信者を確認する。
 先日、お見合いの席で再会した喜多の名前が、そこにはあった。
< 24 / 253 >

この作品をシェア

pagetop