奪取―[Berry's版]
 日の光ではなく、人工的なネオンの輝きが周囲を照らし始めたころ。最後の受講生を見送るべく、絹江は生徒数名とエレベーターへ乗り込んだ。他愛無い会話の後、お疲れ様でしたとの挨拶を改めて交わし、ビルの入り口で別れを告げる。一日の疲労を感じながら、自身の肩に手を回した絹江は、不意に思い出す。昼間、喜多からメールを受け取りながらも、返信そびれていたことに。
 急き立てられるように、絹江はその場で帯に挟めていた携帯電話を取り出す。見覚えのあるメールの作成画面に視線を向けた、その瞬間。

「今頃メールの返事かい?」

 聞き覚えのある声が、絹江の耳に届く。振り返った絹江は、反射的に眉を下げた。他でもない。今しがた、メールを送ろうとした相手、喜多がそこに居たからだ。

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