奪取―[Berry's版]
 元来、着物を普段着とし過ごしていた祖母を持つ絹江は、同年代の友人よりは着物を身近に感じる環境にはあった。だが、それでも。自身が着物に袖を通すのは、何かのお祝い事や記念日に限ったことで。着付けすら儘ならなかった。
 絹江が出会った友人は、着物の絵描き師を目指していた。大学へは色彩、染めの勉強のために進学したのだと。卒業すれば、とある職人の元で修行するのだと。眸を輝かせ話す友人を通し、絹江が着物に魅せられるのに時間はかからなかった。
 着物とは、大きな四角い布を身体に沿わせる衣装だ。昔から、基本的な形は大きく変わらないが、その中にも流行り廃りがある。探れば、日本の民族衣装としての深い歴史が隠れ、地域によっては常識すら変わってくる。
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