奪取―[Berry's版]
逃げようと試みるも、本気を見せる男の前では敵う訳がない。せめて言葉だけでもと、悪態をつくため開いた口を、喜多の唇が塞ぐ。
 遠慮なく、差し込まれる喜多の舌。逃げようとする絹江の舌を追いかけ、摺り合わせて、強く吸われる。ブランクのある、他人と粘膜を触れ合わせる行為。意図的に、送り込まれている喜多の唾液。喉の動きで、喜多はそれを絹江が飲み込んでいることを確認していた。嬉しげに眸を細めて。飲み込みきれず、絹江の頬を伝う唾液を丁寧に舐め取る。たどり着いた首筋に、小さな跡をつけてから。喜多は絹江の眸を覗き込む。涙を浮かべながらも、絹江の眸には明らかに艶っぽい色が見え始めていた。先ほどまでは、見られなかったものである。絹江の隠れるスイッチに触れることへ成功したと確信し、喜多は口角を上げる。

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