奪取―[Berry's版]
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 あまりにも強い快楽ゆえに、涙の跡を残す頬を。喜多は唇で舐め取る。名残惜しげに、一度目じりに唇を落とした。長年、夢見た女性が腕の中に居る。それが、これ以上ないほど喜多の胸を高鳴らせていた。最後の最後まで、絹江がセックスを途中で嫌がり、ベッドから抜け出すことはなかった。……いや、余裕を与えなかっただけではないのかと問われれば、否とは言えないことだろう。
 絹江が目を覚ました後、どんな答えを喜多へ突きつけるかは分からないが。絹江を手放すつもりは、露ほどもなかった。力技に過ぎないと罵られてもだ。
 最近出来た恋人に溺れる従兄弟を、自分も笑えはしないと。喜多は思わず苦笑を浮かべる。
 絹江の温もりから離れがたくも思いながら、喜多は床に散らばる絹江の着物を片付けるため。ベッドから抜け出る決心をしていた。

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