奪取―[Berry's版]
 答えない喜多を急き立てることなく、祖父は見守る。

「じいちゃん。……人を探して欲しい」

 予想外の台詞だったのだろう。喜多の言葉を聞き、一瞬祖父は目を瞠る。だが、体勢を立て直すのは早かった。ゆっくりと腕を組み、足を組み、腰を浮かせて椅子に座り直してから。祖父は問い始めた。

「それは女か?」
「そう」
「惚れた女か?」
「うん」
「相手も、お前を好いているのか?」
「……わからない。でも、嫌われてはいないと思う」
「嫌われていないのなら、何故その相手は姿を消した?探して欲しいというくらいだ。お前に何も言わずに居なくなったのだろう?」
「手紙は貰った。目的があるから、旅に出るって」
「行き先は知らないんだな?」
「うん」

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